セキュリティの焦点は「防御」から「戻せる」へ ―サイバーレジリエンス(Cyber Resilience)へのシフト―

株式会社ベクターデザイン・エンジニアの猪飼(いかい)です。
9月に入り、夏ももうじき終わりですが、まだ蒸し暑いですね。
ということで、少し涼しくなる話を一つ・・・。

皆さんがサイバーセキュリティと聞いて、まず思い浮かぶのは「侵入を防ぐ」ことではないでしょうか。
ファイアウォール、ウイルス対策、パスワード、多要素認証……。
もちろん、どれも今なお重要な対策です。
しかし最近は、それだけでは足りない状況になりつつあります。
それに伴い、セキュリティの考え方は「侵入させない」だけでなく、「侵入され、データを破壊・暗号化されても復旧できるか」という観点で語られるようになりました。
「入口を守る」だけでは間に合わない
かつて企業のセキュリティ対策は、社内とインターネットの境界を守る「境界防御」が中心でした。
ところが近年、クラウドやテレワークが普及し、社内と社外の境界が入り組む環境でデータが行き来する状況へ変化しました。
さらに、盗まれたアカウントやソフトウェアの脆弱性を利用するなど、攻撃方法そのものも進化しています。
そして最近、もう一つ大きく変わっているのが、
「攻撃のスピード」です。
CrowdStrike(*1)では、攻撃者が最初の端末へ侵入してから、組織内の別のシステムへ移動するまでの時間を「ブレイクアウトタイム」として調査しています。
*1 CrowdStrike(クラウドストライク)。アメリカのグローバルサイバーセキュリティ企業。世界各地のサイバー攻撃動向を分析した「グローバル脅威レポート」を毎年発行している。
その平均時間は、
- 2022年:84分
- 2023年:62分
- 2024年:48分
- 2025年:29分
と、急速に短くなっています。
2025年に確認された最速のケースでは、なんと27秒だそうです。
つまり、アラートが出て「何かおかしいぞ?」と人が気付き、状況を調査して対応を始めるころには、すでに攻撃者が別のシステムへ移動している可能性があるわけです。
さらに最近では、この高速化にAIも一役買っています。
CrowdStrikeによれば、AIを活用した攻撃者による活動は前年比89%増加。偵察や認証情報の窃取、検知回避など、さまざまな場面でAIが利用されています。
つまり、防御側に残された「考える時間」そのものが短くなっているのです。
ランサムウェアとの「時間勝負」
この高速化が、特に厄介な形で現れるのがランサムウェアです。
一度ネットワークへ侵入すると、攻撃者はサーバーや共有フォルダを探索し、重要なデータやバックアップを探します。
そして、データを暗号化したり、外部へ持ち出したりします。
今も昔も、攻撃を完全に防ぎ切ることは現実的には困難です。
こうなると、防御側に求められるのは、
「絶対に侵入させないこと」
だけではなくなります。
侵入を検知する。
被害を広げない。
そして、正常な状態へ戻す。
攻撃を受けても事業を立て直せる「サイバーレジリエンス」という考え方が重要になってきた背景には、こうした攻撃の高速化があるのだと思います。
バックアップは「ある」だけでは足りない
そこで改めて重要になるのが、バックアップです。
「うちはバックアップを取っているから大丈夫」
と思いたいところですが、最近の攻撃ではバックアップそのものが狙われることもあります。
本番データとバックアップの両方へ同じ環境からアクセスできれば、一緒に暗号化・削除されてしまう可能性があります。
そのため最近では、
過去の状態を保持する「スナップショット」
一定期間変更・削除できない「イミュータブル」
本番環境とは別の場所へ保管する「オフサイトバックアップ」
といった仕組みの重要性が増しています。
NASではどうする?
弊社が愛用しているSynology NASを例にすると、こうした用途で活用できるのが「Snapshot Replication」と「Hyper Backup」です。
Snapshot Replicationは、直近の状態をスナップショットとして保持し、誤削除やデータ破損などから素早く戻す用途に向いています。
対応機種では、一定期間削除や変更ができない「イミュータブル スナップショット」も利用できます。
一方、Hyper Backupでは、NASのデータを別のSynology NASやクラウドストレージなどへ、複数世代にわたってバックアップできます。
例えば、
直近の復旧はスナップショット。
NASそのものに障害が起きた場合や、もっと以前の状態へ戻したい場合はHyper Backup。
というように、役割を分けて考えることができます。
Hyper Backupにはバックアップデータやインデックスの整合性を確認する機能もあり、「バックアップは動いているように見えるけれど、実際に中身は大丈夫なのか?」をチェックできます。
「バックアップ成功」から「復旧成功」へ
ただし、一つ難しいところがあります。
私たち自身もNASを運用していて、NAS全体をバックアップから復旧する機会は、そう頻繁にはありません。
それ自体は良いことなのですが、見方を変えると、
「バックアップから戻す機会がないので、本当に戻せるか確認する機会も少ない」
とも言えます。
Hyper Backupの整合性チェックが正常でも、実際に業務で必要なファイルを正しく取り出せるか、アクセス権は期待どおりか、NASそのものを再構築できるか――。
最終的には、「実際に戻してみる」ことに勝る確認方法はありません。
だからこそ、これからのバックアップ運用では、
「昨日もバックアップに成功しました」
だけではなく、
「必要になったら、ここから戻せます」
まで確認することが重要になってくるのではないでしょうか。
では、あなたの大切なデータは?
攻撃者が侵入してから横展開するまで、平均29分。
最速では27秒。
攻撃のスピードがこれほど速くなると、すべてを人間が見つけ、判断し、侵害前に止めることには限界があります。
もちろん、パッチ適用や多要素認証、アクセス制御といった「侵入させない対策」は、これからも不可欠です。
しかし、それと同時に、
「もし突破されたら、何時間で戻せるのか?」
も考えておかなければなりません。
これからのセキュリティは、
「攻撃されないようにすること」に加えて、
「攻撃されても致命傷にしないこと」まで。
守るだけでなく、戻すところまでがセキュリティになりつつあります。
皆さんのNASにも、バックアップが設定されていると思います。
では、そのバックアップから――
本当にファイルを戻せることを確認しましたか?
という、少し背筋がぞっとするお話でした。
イミュータブルスナップショットを活用したソリューションもご用意しております。NASのバックアップやランサムウェア対策について、お気軽にお問い合わせください。
※こちらはQumowill NAS 月次レポート(2026年9月号)に掲載されたコラムと同様の内容です。


